安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

一年無事故。そのために仕事をしているようなものだから。

time 2025/11/06

十二月の冷たい雨が、鉄骨の影を濡らしていた。
現場の仮設事務所に貼られた「労災ゼロ 365日達成」の横断幕が、風にふわりと揺れる。
その日の午後、現場の片付けが終わり、社員たちは会社の忘年会場へと車を走らせた。

忘年会は毎年、駅前の小さなホテルの宴会場で開かれる。
四十名を超える社員と協力会社の職人たちがずらりと並び、湯気を上げる鍋と焼き鳥の香りが会場を満たしていた。
誰もがこの一年を乗り切った安堵と、年末特有の浮ついた気分に包まれている。

乾杯のあと、社長が立ち上がった。
白髪交じりの短髪に、日に焼けた顔。建設一筋四十年の男だ。
マイクを持つと、いつもよりゆっくりとした口調で話し始めた。

「今年も一年、本当にご苦労さんでした。皆さんの努力のおかげで、こうして“労災ゼロ”を達成することができました。」

会場のあちこちで拍手が起こる。
それは義務的なものではなく、自然と湧いた誇りの拍手だった。
社長は少し間を置き、静かに続けた。

「現場はいつも危険と隣り合わせです。雨の日も、真夏の炎天下も、皆が注意を重ねてくれた。その積み重ねが、今日につながっています。」

隣で聞いていた若手社員の翔太は、胸の奥がじんと熱くなった。
入社二年目。まだ何もかもがぎこちない自分を、先輩たちは何度も助けてくれた。
夏の日、足場でバランスを崩しかけたとき、すぐに腕をつかんでくれたのも、今この場にいる職長の岡田だった。

社長はグラスの水を一口飲み、少しだけ笑みを見せた。

「究極を言えば、私としては――そのために仕事を頑張っているようなものですからね。」

会場が静まり返る。
社長の目が、社員たち一人ひとりを見渡していた。
「そのため」とは何を指すのか、誰もが心の中で答えを探した。
やがて社長は、ふっと視線を落とし、言葉を継いだ。

「みんなが無事に家に帰って、家族と笑って年を越せる。それが一番です。会社が儲かることより、建物が早くできることよりも、何よりも大事なのは“命”です。皆が生きて、また来年もここで顔を合わせること――それが私にとっての仕事の意味なんです。」

一瞬、空調の音だけが響いた。
次に聞こえたのは、どこかの席からこぼれた拍手だった。
それが波のように広がっていく。
職人たちがうなずきながら手を叩き、翔太もその中にいた。

彼は思った。
“この人の下で働いてよかった”――と。
現場で飛ぶ罵声も、朝の厳しい点呼も、すべてはこの一言のためにあったのだ。

宴が進むにつれ、笑い声が戻った。
だが翔太の胸の奥では、まだ社長の言葉が響いていた。
来年も、再来年も、自分の手で誰かの安全を守れる人間になりたい。
その決意を胸に、翔太はグラスを掲げた。

「来年も、無事故でいきましょう!」

その声に、皆が応えた。
「おう!」と声が重なり、鍋の湯気の向こうで、笑顔が一斉に弾けた。

外はまだ雨が降っている。
だがその夜、会場の窓の内側だけは、確かに温かい光で満ちていた。
 

編集後記

建設の現場では、日々の「無事故」がどれほど尊いかを知る人たちがいます。
それは、“安全第一”というありふれたスローガンではなく、一人ひとりの帰りを願う祈りのような言葉です。
この小説『一年無事故』は、その祈りの姿を描きたくて生まれました。

 

💬 挨拶に使える例(要約・応用)

この小説の社長の言葉や雰囲気は、安全大会の挨拶の材料になり得ます。
例えば、安全大会の挨拶に使うなら、こんな構成が考えられます👇

 
皆さん、今日もご安全に。

私たちが一年間、事故を起こさずに現場を終えるというのは、数字の成果ではありません。
一人ひとりが気を配り、仲間を思い、そして“無事に家に帰る”という当たり前のことを守ってきた結果です。

究極を言えば、私としては――そのために仕事を頑張っているようなものです。
皆さんが笑って家族と食卓を囲めること、それが一番の報酬です。

 

こういう言葉は、社長や現場監督が語ると本当に重みが出ます。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。