安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

フールプルーフと生産性のバランス。新たな「フール」は常に誕生する

time 2026/02/15

フールプルーフ(ポカヨケ)は、人が操作を誤っても危険な状態にならないよう設計する考え方だ。電子レンジはドアが開いていると作動しない。洗濯機はフタが開いていると脱水が始まらない。USBは正しい向きでしか挿入できない。「ミスしても安全」を目指す設計思想である。

建設現場でも、安全帯を装着しないと入れないゲート、重機の後方確認カメラ、色分けされた配管など、さまざまなフールプルーフが活用されている。

しかし、このフールプルーフには、あまり語られない課題がある。

新たな「フール」は常に誕生する

フールプルーフは、「こういうミスが起きるだろう」という想定のもとに設計される。USBが正しい向きでしか挿入できないのは、「逆向きに挿そうとする人がいる」という想定があるからだ。電子レンジがドアを開けると停止するのは、「稼働中にドアを開ける人がいる」という想定があるからだ。

しかし、人間の創造性は、設計者の想定を超える。

「まさか、そんなことをする人がいるとは思わなかった」という事態は、必ず起きる。想定されていなかったミス、想定されていなかった行動、想定されていなかった組み合わせ。新たな「フール」は、常に誕生し続ける。

これは、人間を馬鹿にしているわけではない。人間とはそういうものだ、という話だ。疲れているとき、急いでいるとき、考え事をしているとき、人間は予想外の行動をする。それが人間の本質であり、だからこそフールプルーフが必要なのだ。

この安全大会の挨拶の例文でも近しいことを記載している。

大切なのは、日々、われわれがヒューマンエラーをなくそうと思い続け、そして行動をし続けることではないか。

事例を積み上げて先回りする

新たなフールが常に誕生するなら、フールプルーフも常に更新し続けなければならない。ヒヤリハットの報告、事故事例の分析、現場からのフィードバック。これらを通じて、「こういうミスが起きた」「こういう行動をした人がいた」という事例を積み上げていく。そして、その事例をもとに、次のフールプルーフを設計する。

過去のフールに学び、未来のフールに先回りする。

たとえば、ある現場で「作業員が安全帯をつけずにゲートをくぐり抜けた」という事例があったとする。既存のゲートでは防げなかったということだ。この事例をもとに、ゲートの設計を見直す。隙間をなくす、センサーを追加する、二重のチェック機構を設ける。過去のフールが、次のフールプルーフを生む。この「事例の積み上げ」と「先回り」のサイクルを回し続けることが、フールプルーフを進化させる鍵だ。

しかし、フールプルーフには副作用がある

フールプルーフは万能ではない。むしろ、やりすぎると問題が生じる。

最大の副作用は、生産性の低下だ。

フールプルーフは、本質的に「制約」である。「こうしなければ動かない」「ここを通らなければ先に進めない」「この手順を踏まなければ作業できない」。安全のための制約だが、制約は制約だ。制約が増えれば、作業のスピードは落ちる。手間が増え、時間がかかり、効率が下がる。

たとえば、安全確認のためのチェックリストを10項目から30項目に増やしたとする。安全性は高まるかもしれない。しかし、毎回30項目をチェックする時間と労力は、確実に生産性を圧迫する。あるいは、あらゆる場所にセンサーとロックを設置したとする。誤操作は防げるかもしれない。しかし、正しい操作をしようとしている人まで足止めされ、作業が滞る。

フールプルーフの度が過ぎると、現場は「安全だが動けない」状態になる。

もう一つの副作用。思考停止

生産性の低下だけではない。フールプルーフには、もう一つの副作用がある。

それは、人間の思考停止だ。

「この仕組みがあるから大丈夫」「機械が止めてくれるから大丈夫」「ゲートがあるから大丈夫」。フールプルーフが整備されるほど、人間は考えなくなる。本来、安全は人間の意識と行動によって守られるものだ。しかし、フールプルーフに頼りすぎると、人間は「仕組みに守ってもらう存在」になってしまう。

そして、仕組みの想定を超えるフールが誕生したとき、思考停止した人間は対応できない。仕組みがないと安全を守れない人間が、仕組みのない場面で事故を起こす。

フールプルーフは、人間の思考を補助するものであって、代替するものではない。この点を忘れると、かえって危険が増す。

「いい塩梅」を探る

フールプルーフは必要だ。しかし、やりすぎてはいけない。では、どこで線を引けばいいのか。フールプルーフと生産性の「いい塩梅」は、どうやって見つければいいのか。

正直に言えば、唯一の正解はない。現場ごとに、作業内容ごとに、リスクの大きさごとに、最適な塩梅は異なる。しかし、考え方の指針はある。

1. リスクの大きさで優先順位をつける

すべてのミスに対してフールプルーフを設ける必要はない。致命的な結果につながるミス、重傷や死亡につながる可能性があるミスに対しては、生産性を犠牲にしてでもフールプルーフを徹底する。一方、軽微なミス、取り返しのつくミスに対しては、過度な制約を設けない。

2. フールプルーフの「重さ」を意識する

同じ目的を達成するにも、軽いフールプルーフと重いフールプルーフがある。たとえば、「注意を促す表示」と「物理的なロック機構」では、生産性への影響がまったく違う。まずは軽い方法を試し、効果がなければ重い方法を検討する。最初から最も重い方法を採用しない。

3. 現場の声を聞く

フールプルーフが生産性を阻害していないか、現場が最もよく知っている。「このチェックは意味があるのか」「この手順は本当に必要なのか」という現場の声を、軽視しない。ただし、「面倒だからやめたい」という声と、「本当に無意味だ」という声は区別する必要がある。

4. 定期的に見直す

一度設けたフールプルーフを、そのまま放置しない。環境が変われば、必要なフールプルーフも変わる。過去には意味があった制約が、今は無意味になっていることもある。逆に、新たなリスクに対して、新たなフールプルーフが必要になることもある。定期的な見直しが欠かせない。

「仕組み」と「意識」の両輪

結局のところ、フールプルーフだけで安全は守れない。

フールプルーフは、人間のミスを補う「仕組み」だ。しかし、仕組みには限界がある。新たなフールは常に誕生するし、仕組みが生産性を圧迫することもあるし、仕組みに頼りすぎると人間は思考停止する。

だからこそ、仕組みと並行して、人間の「意識」を育てることが必要だ。「なぜこのフールプルーフがあるのか」を理解させる。「仕組みがあっても、自分で考えることが大切だ」と伝える。「仕組みを超えるフールを自分が生み出さないように」と意識させる。

仕組みと意識の両輪で、安全を守る。どちらか一方だけでは、十分ではない。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

フールプルーフの限界を伝える

「現場にはさまざまなポカヨケの仕組みがあります。しかし、新しいミスは常に生まれます。仕組みがあるから大丈夫、ではなく、仕組みを超えるミスを自分がしないよう、常に意識を持ってください」

現場の声を求める

「現場で『こういうミスが起きた』『こういう危ない場面があった』という経験があれば、ぜひ教えてください。その一つひとつが、次のポカヨケにつながります」

バランスの大切さを伝える

「安全と生産性は、どちらも大切です。安全のために何もかも禁止するのは現実的ではありません。本当に危険なことには厳しく、そうでないことには柔軟に。そのバランスを、皆さんと一緒に探っていきたいと思います」

まとめ

フールプルーフ(ポカヨケ)は、人間のミスを防ぐ重要な仕組みだ。しかし、新たなフールは常に誕生する。設計者の想定を超える行動を、人間は必ずする。だからこそ、事例を積み上げ、先回りするフールプルーフが必要だ。過去のフールに学び、未来のフールに備える。

ただし、フールプルーフの度が過ぎると、生産性が低下し、人間が思考停止する。リスクの大きさで優先順位をつけ、軽い方法から試し、現場の声を聞き、定期的に見直す。フールプルーフと生産性の「いい塩梅」を探り続けることが大切だ。

仕組みだけでは安全は守れない。仕組みと意識の両輪で、安全な現場を作っていきたい。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。