安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

ヒューマンエラーが関わらない事故は、ほぼ存在しない

time 2026/02/26

ヒューマンエラーは、人間の認知、判断、行動における誤りのことだ。うっかりミス、思い込み、確認不足。人間であれば誰でも起こしうる過ちである。

安全教育では「ヒューマンエラーを減らしましょう」と言われる。それは正しい。しかし、私はもう少し踏み込んで考えてみたい。

そもそも、ヒューマンエラーが「関わらない」事故というのは、存在するのだろうか。

統計が示す圧倒的な数字

厚生労働省の「労働災害原因要素の分析」によると、労働災害発生の原因のうち、不安全な行動(ヒューマンエラーを含む)が関与している割合は96.4%に達する。不安全な行動と不安全な状態の両方に起因するものが94.7%、不安全な行動のみに起因するものが1.7%だ。

つまり、労働災害のほぼすべてに、何らかの形で人間の行動が関与している。

別の統計では、労働災害の8割に人間の不安全行動が含まれているとも言われている。どちらの数字を取っても、ヒューマンエラーが関わらない事故は極めて少ないことがわかる。

「直接」と「間接」の関与

ヒューマンエラーの関与には、直接的なものと間接的なものがある。

直接的な関与は、事故の直前に起きたエラーだ。足を滑らせた、確認を怠った、操作を誤った。これらは事故の「引き金」となるエラーである。

間接的な関与は、事故の背景にあるエラーだ。設備の点検を怠った人がいる、マニュアルを不十分に作成した人がいる、危険な作業手順を承認した人がいる、人員配置を誤った管理者がいる。これらは事故の直前には見えないが、事故の「土壌」を作ったエラーである。

一見すると「機械の故障」や「設備の不具合」が原因に見える事故でも、掘り下げていくと、その故障を見逃した人、点検を怠った人、不具合を放置した人が見つかることが多い。

では、ヒューマンエラーが関わらない事故とは何か

ここで逆の問いを立ててみたい。ヒューマンエラーがまったく関わらない事故とは、どのようなものだろうか。

理論的に考えると、以下のようなケースが該当しうる。

1. 純粋な自然災害

予測不可能な地震、落雷、突風など、人間がどうしようもない自然現象による事故。ただし、「その場所で作業をする判断をした人」「避難が遅れた人」「耐震対策を怠った人」を考えると、完全に人間が関わらないケースは少ない。

2. 設計時点で予見不可能だった機械の故障

製造時点では誰も予測できなかった欠陥による故障。しかし、これも「点検で発見できなかったか」「類似事例の情報を収集していたか」を問えば、人間の関与が見えてくる場合がある。

3. 完全に外部からの要因

たとえば、現場に第三者の車両が突っ込んでくるような事故。ただし、「その場所に安全対策を施していなかった」という点で、間接的な関与を問える場合もある。

こうして考えていくと、純粋にヒューマンエラーが関わらない事故を見つけることは、非常に難しい。

「人間がいる限り、エラーは起きる」という前提

この事実は、悲観的に捉えるべきものではない。

むしろ、「人間がいる限り、エラーは必ず起きる」という前提を受け入れることが、安全対策の出発点になる。

「エラーをゼロにしよう」という掛け声は、精神論としては美しい。しかし、人間の認知能力には限界がある。疲労すれば注意力は落ちる。急げばミスが増える。慣れれば油断が生まれる。これは人間の本質であり、変えることはできない。

だからこそ、「エラーが起きても事故にならない仕組み」が必要になる。フェイルセーフやフールプルーフの考え方だ。人間がミスをすることを前提に、それでも安全が保たれるよう設計する。

「人のせい」にして終わらせない

ヒューマンエラーが事故の原因であることは、ほぼ確実だ。しかし、それを「人のせい」にして終わらせてはいけない。

事故が起きたとき、「あいつがミスをしたから」と個人を責めるのは簡単だ。しかし、それでは何も解決しない。その人を処分しても、別の人が同じミスをする可能性がある。人間は必ずミスをするからだ。

重要なのは、「なぜその人はミスをしたのか」「なぜそのミスが事故につながったのか」を掘り下げることだ。

疲労していたのか、時間に追われていたのか、教育が不十分だったのか、作業手順に無理があったのか、設備に問題があったのか。個人のエラーの背後には、必ず組織的・構造的な要因がある。そこに手を打たなければ、同じ事故は繰り返される。

「ヒューマンエラー」という言葉の使い方

ここで一つ、注意を促したい。

「ヒューマンエラー」という言葉は、使い方によっては危険だ。

事故報告書に「原因:ヒューマンエラー」と書いて終わりにしてしまうケースがある。これは思考停止だ。ヒューマンエラーはほぼすべての事故に関わっているのだから、それを「原因」と言ってしまえば、すべての事故の原因は「ヒューマンエラー」になってしまう。何も言っていないのと同じだ。

「ヒューマンエラー」は原因ではなく、結果だ。その結果を生んだ背景、その結果が事故につながった仕組みを分析することが、真の原因究明である。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

「人間だから」を前提にする

「統計では、労働災害のほぼすべてに人間の行動が関わっています。つまり、人間がいる限り、事故のリスクはゼロにはなりません。だからこそ、ミスが起きても事故にならない仕組みを、一緒に作っていく必要があります」

「誰かのせい」にしない文化を語る

「事故が起きたとき、『誰がミスをしたか』を追及するだけでは、何も変わりません。大切なのは、『なぜミスが起きたのか』『なぜそれが事故につながったのか』を掘り下げることです。ミスを報告しやすい雰囲気を、現場から作っていきましょう」

仕組みの重要性を強調する

「人間の注意力には限界があります。疲れれば判断が鈍る、急げば確認を省略する。それが人間です。だからこそ、注意力に頼らない安全対策、仕組みで守る安全が必要なのです」

まとめ

ヒューマンエラーが関わらない事故は、ほぼ存在しない。統計上、労働災害の96%以上に人間の不安全行動が関与している。直接的なエラーだけでなく、間接的なエラー(点検の怠り、不十分な教育、不適切な判断など)まで含めれば、純粋に人間が関わらない事故を見つけることは極めて難しい。

この事実は、「人間がいる限りエラーは必ず起きる」という前提を受け入れることの重要性を示している。エラーをゼロにしようとするのではなく、エラーが起きても事故にならない仕組みを作る。個人を責めるのではなく、エラーを生んだ背景を掘り下げる。

ヒューマンエラーは原因ではなく、結果だ。その結果を生んだ構造に向き合うことが、真の安全対策につながる。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。