安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

スイスチーズモデルの「穴の一致」は偶然か必然か。現場で使える安全対策の考え方

time 2026/01/19

スイスチーズモデルの「穴の一致」は偶然か必然か。現場で使える安全対策の考え方

スイスチーズモデルは、安全教育で頻繁に引用される有名な理論だ。

「複数の防護層に空いた穴が、偶然一直線に並んだときに事故が起きる」という説明を聞いたことがある人は多いだろう。安全大会の講演でも、よく登場するモデルである。

しかし、この「偶然」という言葉に、私は少し引っかかりを感じている。

穴が一直線に並んだのは、本当に「偶然」だったのだろうか。それとも、どこかに「必然」があったのだろうか。この問いの立て方によって、その後の安全対策のアプローチはまったく変わってくる。

「偶然」と捉えるか、「必然」と捉えるか

スイスチーズモデルの教科書的な説明では、各防護層の穴は「常に動いている」とされる。ある日は穴がずれていて事故が防がれ、別の日は穴が並んで事故が起きる。まるで運の問題のように見える。

この「偶然」という理解は、ある意味で気が楽だ。「たまたま運が悪かった」と思えば、過度に自分を責めずに済む。

しかし、この理解には落とし穴がある。

「偶然」と捉えてしまうと、再発防止策が甘くなりやすい。「今回はたまたま穴が並んだだけで、次は大丈夫だろう」という楽観が生まれる。原因究明が表面的なところで止まり、根本的な改善に至らないことがある。

一方、「必然」と捉えるとどうなるか。

穴が並んだことには理由がある、と考える。たとえば、「その日に限って確認を省略した」「その作業員に限って経験が浅かった」「その現場に限って設備が古かった」など、それぞれに原因がある。そして、その原因が重なったのにも、何らかの背景がある可能性がある。

「必然」と捉えることで、より深い原因究明と、より実効性のある再発防止策が生まれる。

「穴の一致を防ぐ」という発想の難しさ

スイスチーズモデルから導かれる対策として、「穴が一直線に並ばないようにする」という考え方がある。

これは理論としては正しい。しかし、実務としては極めて難しい。

なぜなら、「穴の一致を防ぐ」ためには、各層の穴がどこにあり、どのような条件で動くのかを把握しなければならないからだ。

たとえば、建設現場の防護層を考えてみよう。

  • 第1層:作業手順書
  • 第2層:作業員の教育・訓練
  • 第3層:保護具の着用
  • 第4層:安全設備(手すり、ネットなど)
  • 第5層:管理者によるチェック

それぞれの層に穴がある。手順書に記載漏れがある、教育が形骸化している、保護具を着けていない、設備が劣化している、管理者が多忙でチェックが甘い、といった具合だ。

これらの穴が「どのような条件で一致するか」を予測するのは、ほぼ不可能だ。各層は独立して動いているようで、実は微妙に連動していることがある。たとえば、「納期が迫っている」という一つの要因が、すべての層の穴を同時に広げることがある。しかし、そのような連動性を事前に把握し、穴の一致を防ぐことは、現実的には難しい。

より現実的なアプローチ。「穴を小さくする」

では、どうすればいいのか。

私は、「穴の一致を防ぐ」よりも「各層の穴を少なく、小さくする」ほうが、現実的な安全対策だと考えている

穴がいつ、どのように一致するかを予測することは難しい。しかし、個々の層の穴を小さくすることは、比較的取り組みやすい。

手順書の穴を小さくする。記載を見直し、曖昧な箇所を具体化する。
教育の穴を小さくする。形骸化した研修を実効性のあるものに改善する。
保護具の穴を小さくする。着用率を上げ、装備の点検を徹底する。
設備の穴を小さくする。老朽化した設備を更新し、定期点検を行う。
管理の穴を小さくする。チェック体制を強化し、形式的な確認を実質的なものにする。

各層の穴が小さくなれば、たとえ一直線に並んだとしても、危険が通り抜ける確率は下がる。これは、複雑な連動性を把握しなくても実行できる、地道だが確実なアプローチだ。

「穴のサイズ」という視点

ここで一つ、スイスチーズモデルの見方を少し変えてみたい。

教科書的なスイスチーズモデルでは、「穴の位置」に注目が集まりがちだ。穴が一直線に並ぶかどうか、という話だ。

しかし、穴には「位置」だけでなく「サイズ」もある。

大きな穴の空いた層が多ければ、穴が並ぶ確率は高くなる。逆に、どの層も穴が小さければ、並んだとしても危険が通り抜けにくい。

この「穴のサイズ」という視点は、現場の安全対策を考えるうえで実用的だ。

「今日のこの作業で、どの層の穴が大きくなっているか」を意識する。たとえば、新人が多い日は「教育・訓練」の層に大きな穴が空いている。その日は、他の層(たとえば管理者によるチェック)を手厚くすることで、全体としてのリスクを下げられる。

穴の一致を防ぐことはできなくても、穴のサイズを意識的にコントロールすることはできる。

「偶然」の中にある「必然」を探す

話を最初の問いに戻そう。

穴が一直線に並んだのは「偶然」か「必然」か。

私の答えは、「偶然の中に必然を探す姿勢が重要」というものだ。

事故が起きたとき、「たまたま穴が並んだ」で終わらせない。「なぜ、その日に限って穴が並んだのか」を掘り下げる。すると、多くの場合、偶然に見えた出来事の裏に、何らかの共通要因が見つかる。

納期のプレッシャー、人手不足、天候の急変、コミュニケーション不足。こうした要因が、複数の層の穴を同時に広げていたことが明らかになることがある。

この「偶然の中の必然」を見つけることができれば、より根本的な対策が打てる。個々の層の穴を塞ぐだけでなく、穴を広げる共通要因そのものに対処できるからだ。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

「穴を小さくする」ことの大切さを伝える

「スイスチーズモデルでは、穴が並んだときに事故が起きると言われます。しかし、穴がいつ並ぶかを予測することは難しい。私たちにできるのは、自分の担当する層の穴を、できるだけ小さくしておくことです。手順を省略しない、保護具を確実に着ける、声を掛け合う。こうした一つひとつの行動が、穴を小さくします」

「偶然」で片付けない姿勢を促す

「事故やヒヤリハットが起きたとき、『たまたま』『運が悪かった』で終わらせていないでしょうか。偶然に見えることの裏には、必ず理由があります。その理由を探す姿勢が、次の事故を防ぎます」

「今日、どの穴が大きいか」を意識させる

「今日の現場で、どの防護層の穴が大きくなっているか、考えてみてください。新人が多い? 暑さで集中力が落ちている? 工期が迫っている? 大きくなっている穴を意識して、その分、他の層で補う。そういう意識が、事故を防ぎます」

結論

スイスチーズモデルは、事故発生のメカニズムを理解するうえで有用な理論だ。しかし、「穴が偶然並んだときに事故が起きる」という理解だけでは、実践的な安全対策につながりにくい。

重要なのは、以下の視点だ。

1. 「偶然」の中に「必然」を探す
穴が並んだ背景にある共通要因を掘り下げることで、より根本的な対策が見えてくる。

2. 「穴の一致を防ぐ」より「穴を小さくする」
各層の連動性を把握するのは難しいが、個々の層の穴を小さくすることは、地道に取り組める現実的な対策だ。

3. 「穴のサイズ」を意識する
その日、その現場で、どの層の穴が大きくなっているかを意識し、他の層で補う姿勢が重要だ。

スイスチーズモデルは、「多重防護が大事」という教訓だけでなく、「各層の穴を小さくし続ける地道な努力」の重要性を教えてくれる。理論を現場に活かすために、この視点を持っておきたい。

スイスチーズモデルのようなリスク識別の考え方は、安全大会の開会挨拶にも反映できます。リスク予見やチームでの連携を呼びかける具体的な挨拶文は、以下の例文をご参考にしてください。

安全大会 開会の挨拶 例文

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。