安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

「労働災害」は誰のための言葉か。現場に届く言い換えを考える

time 2026/01/20

安全大会では「労働災害ゼロを目指す」「労災撲滅」といった言葉が頻繁に使われる。

しかし、この「労働災害」という言葉、現場の作業員一人ひとりの心にどれだけ届いているだろうか。

私は、「労働災害」という表現に、どこか会社側の、組織側の響きを感じている。法律用語であり、統計用語であり、報告書に書く言葉だ。正しい言葉ではある。しかし、現場で汗を流している人にとって、自分ごととして響く言葉だろうか。

「労働災害」は誰の言葉か

「労働災害」という言葉の定義を確認してみよう。

労働安全衛生法では、「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」と定義されている。

この定義を読んで、自分の身に起きることだと実感できる人が、どれだけいるだろうか。

「労働災害」という言葉は、本質的に管理する側の言葉だ。

会社が労働基準監督署に報告する言葉。統計を取るための言葉。安全管理体制を構築するための言葉。どれも重要な目的を持っているが、現場の一人ひとりに「自分の身を守ろう」という意識を芽生えさせる言葉かというと、疑問が残る。

言葉は意識を形作る

言葉の選び方は、人の意識に影響を与える。

たとえば、「交通事故」と「交通事故死」では、受ける印象がまったく違う。「交通事故を減らそう」と言われるより、「交通事故死をなくそう」と言われたほうが、切迫感がある。

同じことが「労働災害」にも言える。

「労働災害ゼロを目指す」と言われても、どこか他人事に聞こえる。しかし、「現場で怪我をする人をゼロにする」と言われたら、少し響き方が変わる。「あなたが怪我をしないように」と言われたら、さらに自分ごとになる。

言葉を変えるだけで、同じ内容がまったく違う重みを持つ。

現場に届く言い換えを考える

「労働災害」という言葉を、現場の担当者に届きやすい表現に言い換えるとしたら、どのような言葉が考えられるだろうか。

「就業中の怪我」

最もシンプルな言い換えだ。「労働災害を防ぐ」より「仕事中に怪我をしないようにする」のほうが、具体的で自分ごとになる。

「現場での事故」

建設業では「現場」という言葉に特別な重みがある。「現場での事故を防ぐ」という言い方は、作業員にとって身近に感じられる。

「仲間の怪我」

自分だけでなく、一緒に働く仲間の怪我を防ぐという視点を加えると、チームとしての意識が生まれる。「労働災害ゼロ」より「仲間に怪我をさせない」のほうが、行動につながりやすい。

「痛い思い」

さらに直接的な表現だ。「痛い思いをしないために」「痛い思いをさせないために」という言い方は、感覚に訴える力がある。

「労災」という略語の功罪

「労働災害」は「労災」と略されることが多い。この略語にも、少し考えるべき点がある。

「労災」という言葉は、現場でも広く使われている。「労災になった」「労災で休んでいる」といった使い方だ。

しかし、「労災」という略語は、保険や手続きのニュアンスを強く持っている

「労災保険」「労災申請」「労災認定」という文脈で使われることが多いため、「労災」と聞くと、怪我をした後の補償や手続きを連想する人も多い。つまり、「事故が起きた後」の話に聞こえてしまう。

安全大会で伝えたいのは「事故を起こさない」ことだ。「労災を防ぐ」という言い方だと、無意識のうちに「事故の後始末」の話に聞こえてしまうリスクがある。

法律用語と現場の言葉を使い分ける

誤解のないように言っておくと、「労働災害」という言葉が間違っているわけではない。

法律上の正式な用語であり、報告書や統計では使うべき言葉だ。安全衛生管理体制の中で、共通の定義を持った言葉として機能している。

しかし、使う場面によって言葉を選ぶことは重要だ。

書類や報告書では「労働災害」と書く。しかし、安全大会の挨拶や朝礼で、作業員の心に響かせたいときは、別の言葉を選ぶ。この使い分けができるかどうかで、メッセージの伝わり方は大きく変わる。

「自分ごと」にする言葉の力

安全対策が本当に機能するのは、一人ひとりが「自分ごと」として捉えたときだ。

「労働災害ゼロ」というスローガンは、会社としての目標としては正しい。しかし、それが現場の一人ひとりの行動に結びつくかどうかは、別の問題だ。

「自分が怪我をしないように」「隣で働く仲間に怪我をさせないように」「今日、家に無事帰れるように」。こうした表現のほうが、行動を変える力を持っている。

言葉は、意識を形作り、行動を促す。だからこそ、誰に向かって話しているのかを意識して、言葉を選びたい。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

「労働災害」を言い換える

「今日は労働災害ゼロについてお話しします」ではなく、「今日は、皆さんが怪我なく家に帰るための話をします」と切り出す。最初の一言で、聞き手の意識が変わる。

統計を「人」に置き換える

「昨年、建設業では○○件の労働災害が発生しました」という報告を、「昨年、○○人の仲間が怪我をしました」と言い換える。数字の向こうに人がいることを意識させる。

「あなた」に語りかける

「労働災害を防ぎましょう」ではなく、「あなたが怪我をしないでください」「あなたの隣の人を守ってください」と、二人称で語りかける。「あなた」という言葉には、一般論を個人の問題に変える力がある。

まとめ

「労働災害」という言葉は、法律用語として正確であり、安全管理上必要な言葉だ。しかし、それは本質的に管理する側の言葉であり、現場の一人ひとりの心に届きにくい面がある。

安全大会の挨拶や朝礼で、本当に伝えたいことを届けるためには、言葉の選び方を意識したい。「就業中の怪我」「現場での事故」「仲間の怪我」「痛い思い」といった、より具体的で身近な表現を使うことで、聞き手の意識は変わる。

法律用語と現場の言葉を使い分ける。「誰に向かって話しているのか」を意識する。この姿勢が、言葉を届ける力につながり、最終的には安全な現場づくりに貢献する。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。