2025/11/21
安全衛生責任者は、元請けと下請けをつなぐ「結節点」として、現場の安全管理において重要な役割を担っている。
統括安全衛生責任者との連絡調整、自社作業員への指示・教育、他社との作業調整。法令上も実務上も、この役職がなければ現場の安全管理は成り立たない。
一方で、私は安全大会の挨拶原稿を作成する仕事を通じて、多くの協力会会長と話をする中で、ある疑問を抱くようになった。
「安全衛生責任者が優秀だったから事故が減った」という話を、ほとんど聞いたことがない。
「結節点」としての役割は確かに重要だが
安全衛生責任者の主な職務は、次のとおりである。
- 統括安全衛生責任者との連絡調整
- 連絡事項の関係者への伝達
- 自社作業に関する安全管理
- 混在作業に伴う危険の確認
いずれも欠かすことのできない職務だ。情報が途切れるところに事故が起きる、という観点から見れば、この「結節点」が適切に機能することは、安全管理の土台である。
しかし現実には、安全衛生責任者の力量と事故の増減が、明確に連動しているようには見えない。
優秀な安全衛生責任者が配置されている現場でも事故は起きるし、担当者が交代しても事故の発生傾向が大きく変わらないケースも少なくない。
なぜ力量が事故減に直結しないのか
その理由は、安全衛生責任者の能力不足ではなく、役割の性質そのものにある。
第一に、安全衛生責任者の影響範囲には限界がある
安全衛生責任者が担うのは、主に情報の伝達と調整である。一方、事故の直接原因は、個々の作業員の行動、設備の状態、作業環境など、本人の直接的なコントロールが及ばない領域にあることが多い。
正確に情報を伝えたとしても、その内容が現場の行動に反映されなければ、事故は防げない。
第二に、事故の原因は複合的である
スイスチーズモデルが示すとおり、事故は単一の要因ではなく、複数の要因が重なって発生する。安全衛生責任者の力量は、そのうちの一要素にすぎない。
第三に、構造的な問題は個人の努力では解決できない
過密な工期、人手不足、老朽化した設備。こうした構造的な問題は、安全衛生責任者がどれほど優秀であっても、単独で解決することはできない。
むしろ構造に無理がある現場では、安全衛生責任者に過度な負担が集中し、本来の役割を十分に果たせなくなることすらある。
「安全衛生責任者任せ」の危うさ
ここで強調しておきたいのは、安全衛生責任者の役割を軽視しているわけではない、という点だ。この職務は不可欠であり、現場の安全管理において重要な存在であることは間違いない。
問題は、安全衛生責任者「だけ」に事故防止を期待してしまうことにある。
事故が起きたとき、「安全衛生責任者は何をしていたのか」と個人に責任を帰するのは簡単だ。しかし、本当に問うべきなのは、個人の力量では解決できない構造的な問題ではないだろうか。
構造的な視点で安全を考える
事故を減らすためには、安全衛生責任者の力量向上と同時に、あるいはそれ以上に、構造的な取り組みが欠かせない。安全は特定の誰かの仕事ではない。現場に携わる全員が、自分と仲間の安全を守る主体であるという意識を持つ必要がある。
また、注意力に頼らなくても安全が確保できる業務フローになっているかを見直すことも重要だ。無理な工期や人員不足、劣化した設備は、事故の温床となる。これらは経営判断の問題であり、安全対策として正面から取り組まなければならない。個人の伝達力に依存せず、情報が確実に共有される仕組みを整えることも欠かせない。
安全衛生責任者の本当の役割
こうして見ると、安全衛生責任者の本当の役割が見えてくる。
それは、「自分一人で事故を防ぐ人」ではない。
現場の構造的な問題に気づき、声を上げる人である。
現場の最前線に立つからこそ見える無理や歪みを、元請けや経営層に伝え、改善を促す。その役割こそが、安全衛生責任者の価値ではないだろうか。
声を上げても、すぐに状況が変わるとは限らない。それでも、声を上げなければ、何も変わらない。
まとめ
安全衛生責任者は、現場に欠かせない重要な存在である。しかし、事故防止を個人の力量に委ねるだけでは限界がある。
安全衛生責任者を中心に、現場全員、そして組織全体で「仕組みとしての安全」を築いていくこと。それこそが、事故を減らす最も確実な道である。
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