安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

フェイルセーフを「人間」に適用する。失敗しても大丈夫な現場という発想

time 2026/02/12

フェイルセーフとは、機械や設備が故障したとき、自動的に安全な状態になるよう設計する考え方だ。

クレーンの過負荷防止装置、エレベーターの非常ブレーキ、電動工具のデッドマンスイッチ。「壊れても安全」を目指す設計思想である。

これは原則として、機械側の話だ。機械が壊れたときにどう振る舞うか、という設計の問題である。

しかし、この思想を「人間」に、「現場」に適用したら、どうなるだろうか。

「失敗しても大丈夫」という発想

フェイルセーフの本質は、「失敗は起きる」という前提に立つことだ。

機械は壊れる。だから、壊れたときに安全な状態になるよう設計する。「壊れないようにする」だけでなく、「壊れても大丈夫なようにする」。

この発想を人間に適用すると、こうなる。

人間は失敗する。だから、失敗したときに安全な状態になるよう現場を設計する。「失敗しないようにする」だけでなく、「失敗しても大丈夫なようにする」。

言葉にすると当たり前のようだが、現実の安全対策は「失敗しないようにする」に偏っていることが多い。注意喚起、教育、指導、マニュアルの徹底。どれも「失敗させない」ための施策だ。

もちろん、失敗を減らす努力は必要だ。しかし、人間は必ず失敗する。どれだけ教育しても、どれだけ注意しても、失敗はゼロにならない。

だからこそ、「失敗しても大丈夫」な現場を作るという発想が重要になる。

「落ちても大丈夫」な現場

建設現場で最も多い死亡災害は、墜落・転落だ。

墜落を防ぐための施策は多い。足場の点検、手すりの設置、開口部の養生、フルハーネスの着用義務。どれも「落ちないようにする」ための対策だ。

しかし、フェイルセーフの発想で考えると、「落ちても大丈夫」な現場を作るという視点が出てくる。

親綱とフルハーネスの組み合わせは、まさにこの発想だ。作業員が足を滑らせても、ハーネスが体を支え、親綱が落下を止める。「落ちないようにする」のではなく、「落ちても止まる」仕組みだ。

安全ネットも同様だ。高所から落下しても、ネットが受け止める。「落ちないようにする」のではなく、「落ちても大丈夫」な環境を作る。

これらは、人間に対するフェイルセーフと言える。

「怪我をしても大丈夫」という究極の発想

この発想をさらに進めると、「怪我をしても大丈夫」という考え方に行き着く。

怪我をしても大丈夫。ぜんぜん大丈夫ではない、と思うかもしれない。怪我は痛いし、後遺症が残ることもある。絶対に避けたいことだ。

しかし、「怪我をしても大丈夫」という発想は、決してふざけた話ではない。

怪我は起きる。どれだけ対策しても、ゼロにはできない。その前提に立ったとき、「怪我が起きたときに、被害を最小限にする」「怪我が起きたときに、迅速に対応できる」という発想は、極めて現実的だ。

具体的には、こういうことだ。

  • 応急処置の体制を整えておく
  • AEDや救急キットを適切に配置する
  • 緊急搬送のルートと手順を確認しておく
  • 近隣の病院との連携を取っておく
  • 労災保険の手続きをスムーズに行える体制を作っておく

これらは、「怪我をしないようにする」施策ではない。「怪我が起きたときに、最悪の事態を防ぐ」施策だ。

怪我をしても、命は助かる。怪我をしても、後遺症を最小限にできる。怪我をしても、生活が破綻しない。そういう「大丈夫」を作っておくことは、安全管理の重要な一部だ。

「非現実的」と言われるかもしれないが

忙しい現場で、こんな発想は非現実的だと言われるかもしれない。

工期に追われ、人手も足りない。「落ちないようにする」ための基本的な対策すら、十分にできていないのに、「落ちても大丈夫」な環境作りまで手が回らない。そんな声が聞こえてきそうだ。

確かに、理想と現実には差がある。

しかし、だからといってこの発想を捨てるべきではない。

むしろ、忙しいからこそ、この発想が必要だ。忙しい現場では、人間の注意力は低下する。疲労が溜まり、判断が鈍り、失敗の確率が上がる。「失敗しないようにする」施策だけでは、限界がある。

「失敗しても大丈夫」な仕組みを作っておくことで、忙しい現場でも安全を確保できる。人間の注意力に頼りきらない安全対策。それが、フェイルセーフの本質だ。

機械と人間の違い

ただし、機械のフェイルセーフと、人間に対するフェイルセーフには、一つ大きな違いがある。

機械のフェイルセーフは、設計段階で組み込まれる。一度設計すれば、あとは自動的に機能する。人間の意思や努力は必要ない。

しかし、人間に対するフェイルセーフは、継続的な努力が必要だ。

安全ネットは張りっぱなしにしておけばいいわけではない。定期的に点検し、劣化していないか確認する必要がある。フルハーネスも、正しく装着しなければ意味がない。応急処置の体制も、訓練しなければ実際の場面で機能しない。

つまり、人間に対するフェイルセーフは、「仕組み」を作るだけでなく、「仕組みを維持する」努力が必要だ。

ここに、人間の意思と行動が介在する。だからこそ、「失敗しても大丈夫な現場を作る」という意識を、現場全員で共有することが重要になる。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

「失敗は起きる」という前提を共有する

「どれだけ注意しても、人間は失敗します。それを責めても仕方がない。大切なのは、失敗が起きたときに、最悪の事態を防ぐ仕組みを作っておくことです」

フルハーネスや安全ネットの意味を問い直す

「フルハーネスは、落ちないためにつけるのではありません。落ちても大丈夫なようにつけるのです。この違いを意識してください」

「大丈夫」の範囲を広げる

「私たちの目標は、事故ゼロです。しかし同時に、万が一のときに命を守る体制も整えています。応急処置の訓練、搬送ルートの確認、病院との連携。これらも、皆さんを守るための安全対策です」

まとめとして

「失敗しないようにする」努力と、「失敗しても大丈夫なようにする」仕組み。この両輪で、より安全な現場を作っていくことが望ましい

そして、「失敗しても大丈夫なようにする」ことを肯定するのがフェイルセーフの考え方である。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。