安全大会の挨拶とヘルメット

協力会会長、元請け社長の立場での安全大会の挨拶のお役立ち情報をお伝えしています。

度数率・強度率という建設業の言葉ではなく、現場には「○人が怪我をした」と伝える

time 2026/01/21

安全大会の挨拶で、「当社の度数率は○○で、業界平均と比較して…」という話を聞くことがある。

度数率や強度率は、労働災害の発生状況を客観的に示す重要な指標だ。企業間の比較や、自社の安全成績の推移を把握するうえで欠かせない数字である。

しかし、この数字を安全大会の挨拶で現場の作業員に向けて話したとき、どれだけの人が「自分ごと」として受け止めているだろうか。

私は、度数率・強度率は経営陣や協力会の役員の間で用いるべき数字であり、現場の作業員には別の伝え方をすべきだと考えている。

度数率・強度率とは何か

まず、度数率と強度率の定義を確認しておこう。

度数率は、100万延べ実労働時間あたりの労働災害による死傷者数を表す。計算式は以下のとおり。

度数率 =(労働災害による死傷者数 ÷ 延べ実労働時間数)× 1,000,000

強度率は、1,000延べ実労働時間あたりの労働損失日数を表す。計算式は以下のとおり。

強度率 =(延べ労働損失日数 ÷ 延べ実労働時間数)× 1,000

どちらも、企業規模や労働時間の違いを調整して、安全成績を比較できるようにした統計指標だ。

度数率・強度率が「伝わらない」理由

度数率・強度率は、なぜ現場の作業員に伝わりにくいのか。

1. 計算式が抽象的すぎる

「100万延べ実労働時間あたりの死傷者数」と言われて、それが自分の日常とどうつながるのか、すぐに理解できる人は少ない。「延べ実労働時間」という概念自体が、日々の作業とは遠い世界の話に感じられる。

2. 数字が小さすぎてピンとこない

度数率は、建設業でも1〜2程度の数字であることが多い。「度数率が1.5から1.2に下がった」と言われても、その0.3の違いが現場でどういう意味を持つのか、実感しにくい。

3. 比較のための指標である

度数率・強度率は、そもそも「比較」のために設計された指標だ。自社と業界平均を比較する、今年と去年を比較する、A事業所とB事業所を比較する。こうした比較分析は経営上重要だが、現場の一人ひとりにとっては「だから何?」という話になりやすい。

経営陣にとっての意味

度数率・強度率は、経営陣にとっては非常に有用な指標だ。

業界内でのポジション把握

自社の度数率が業界平均より高いのか低いのか。それによって、安全対策の優先度や投資判断が変わる。

経年変化の追跡

過去5年、10年のトレンドを見ることで、安全施策の効果を検証できる。

目標設定と評価

「度数率を○○以下にする」という定量目標を設定し、達成度を評価できる。

対外的な説明

取引先や発注者に対して、自社の安全成績を客観的な数字で示すことができる。

これらはすべて、経営レベルでの意思決定に必要な情報だ。度数率・強度率は、そのための言語として機能している。

現場にとっての意味

では、現場の作業員にとって、度数率・強度率はどういう意味を持つか。

正直に言えば、ほとんど意味を持たない。

現場の作業員が気にしているのは、「今日の作業で怪我をしないか」「隣で働く仲間が安全か」ということだ。100万時間あたりの死傷者数という抽象的な数字は、その関心とはかけ離れている。

「当社の度数率は1.2です」と言われても、それが自分の行動をどう変えるべきかという示唆は得られない。

現場に届く伝え方

現場の作業員に安全への意識を高めてもらうには、度数率・強度率を別の形に「翻訳」する必要がある。

「○人が怪我をした」という具体的な人数

「昨年、当社では○人の仲間が怪我で休業しました」という伝え方は、度数率よりもはるかに具体的だ。数字の向こうに人がいることが見える。

「○日間、仕事を休んだ」という損失日数

強度率を「延べ○日間、仲間が仕事を休まざるを得なかった」と言い換えると、その重みが伝わる。

「○人に1人」という確率

「この会場にいる100人のうち、統計的には○人が今年中に怪我をする可能性がある」という言い方は、自分ごととして考えさせる力がある。

具体的な事故の内容

「昨年は、足場からの転落で○人、工具の落下で○人が怪我をしました」と、事故の種類と人数を具体的に伝えると、どこに注意すべきかが明確になる。

二段構えで伝える

誤解のないように言っておくと、度数率・強度率を使うこと自体が悪いわけではない。

問題は、誰に向かって話しているかを意識せずに使うことだ。

安全大会には、経営陣も現場の作業員も参加している。両者に向けてメッセージを届けるなら、二段構えで伝えるのが効果的だ。

まず、具体的な人数や事例で現場の作業員の心をつかむ。「昨年は○人の仲間が怪我をしました。そのうち○人は骨折で、○人は入院が必要でした」と伝える。

その上で、全体像を示す。「これを統計指標で見ると、度数率は○○となり、業界平均と比べて○○という位置にあります」と補足する。

この順番が重要だ。最初に統計指標を出すと、現場の人は聞く気をなくす。最初に具体的な話をして関心を引き、その後で全体像を示す。

「経営の言葉」と「現場の言葉」

これは、度数率・強度率に限った話ではない。

安全管理には、「経営の言葉」と「現場の言葉」がある。

度数率、強度率、リスクアセスメント、PDCA、KPI。これらは経営の言葉だ。管理体制を構築し、成果を測定し、改善を図るために必要な概念である。

一方、「怪我をしない」「仲間を守る」「無事に家に帰る」「痛い思いをしない」。これらは現場の言葉だ。一人ひとりの行動を変えるための言葉である。

どちらも必要だ。しかし、使う場面を間違えると、メッセージは届かない。

経営会議では経営の言葉を使う。安全大会の挨拶では、現場の言葉を中心に使い、必要に応じて経営の言葉を補足する。この使い分けができるかどうかで、安全への取り組みの実効性は大きく変わる。

安全大会の挨拶での活用

この考え方を安全大会の挨拶に盛り込むなら、以下のようなアプローチが考えられる。

具体的な人数から入る

「昨年、当社の現場で○人の方が怪我をしました」と切り出す。「度数率は○○でした」とは言わない。数字の向こうにいる人の存在を、最初に意識させる。

統計は補足として使う

「この○人という数字を、業界の統計と比較すると…」という形で、後から補足する。順番を逆にしない。

改善を「人数」で語る

「今年の目標は度数率○○以下」ではなく、「今年は怪我をする人をゼロにする」と語る。目標を人の言葉で表現する。

まとめ

度数率・強度率は、労働災害の発生状況を客観的に把握するための重要な統計指標だ。経営陣や協力会の役員が、安全成績を分析し、目標を設定し、対外的に説明するために欠かせない。

しかし、この指標をそのまま現場の作業員に伝えても、自分ごととして受け止めてもらうのは難しい。計算式が抽象的で、数字が小さく、日々の作業とのつながりが見えにくいからだ。

現場には、「昨年○人が怪我をした」「○人が入院した」という具体的な人数で伝えるほうが効果的だ。数字の向こうに人がいることを意識させ、自分ごととして考えてもらう。

度数率・強度率は経営陣のための言葉、人数や具体的な事例は現場のための言葉。この使い分けを意識することで、安全へのメッセージはより確実に届くようになる。

この記事を書いた人

ニーバーオフィス

挨拶原稿会社の代表者です。安全大会での挨拶について、多くの協力会の会長さん、元請けの社長さんのご助力をしてきた経験から、挨拶の内容やアイデア、マナー、それから安全大会がどのようなものかなど、さまざまお伝えしています。